" 本がなしえる、最も深遠なこととは、読むという行為に読者自身が引き連れてくるストーリーを明らかにすることです。これをさきほどの、テクノロジーの不断の変化が、われわれの倫理観にどういう意味を与えるか、という問題につなげると、我々は、この場所をつくっているのは自分たちなのだ、ということを理解する必要があります。作品が作り物である、ということを明らかにすること、つまり、その中を生きることもできるし、ひとつの現実として受け止めることもできるものであることを明らかにし、みずからが作り物であることに注意を向けさせるものであることを明らかにすることで、作家は読者に、自分の人生を振り返って見れば、それもまた、外から授かったものであり、かつ自分が捏造したものであることを意識してもらうことができるのです。こうした二重の意識を持ち続けられれば、我々は、自分たちの人生を書き続ける能力を維持することができるでしょう。"
リチャード・パワーズ(柴田元幸編『パワーズ・ブック』より)